2022/05/23

無線LANネタ(応用的な内容)

無線LANの有効活用に必要な4つのポイント

無線LANを最大限に活用するためには、(1)無線LAN規格、(2)電波管理とアンテナ選定、(3)有線ネットワークの構成、(4)無線のサーベイとチューニング、の4つの知識が必要。


(1)無線LAN規格

同じリソースを使っているのに速度はどんどん高くなる

道幅(チャネル当たりの帯域幅)は基本的に20MHzのまま変わらないが、搬送可能なデータはどんどん増えている。これが無線LANの現状。


技術的な工夫で通信品質や速度を高める

無線LANは複数の技術を組み合わせている。「DSSS」はノイズによる影響を受けにくくする技術。「OFDM」は通信に使うチャネルを「サブキャリア」と呼ぶ搬送波に分けて重ねることで高速化する技術。


DSSS(Direct Sequence Spread Spectrum)(直接拡散方式)」は、802.11bで採用された符号化の仕組み。使用可能なチャネルでデータを分けて送る。ノイズによる影響を受けにくい特徴がある。
IEEE802.11gからは、DSSSに加えてOFDMにより、802.11bとの互換性を保ちつつ、11Mビット/秒から54Mビット/秒に高速化した。
OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)(直交周波数分割多重)」は、無線チャネルを狭帯域のサブキャリアに分割し、互いに干渉しないように直交配置し、並列伝送を行う方式。

高速化のための3つの工夫

IEEE802.11n以降の規格では、「コーディングレートと1次変調方式」「空間拡張」「マルチチャネル」の3つの要素を工夫することにより、通信速度を高めている。


データが無線へと変換されるプロセス

無線LANではコーディング(符号化)と1次変調によって、データがアナログ信号へと変換(変調)される。その組み合わせが、通信速度やエラー耐性に影響する。


アナログ信号に情報を載せる最小の単位を「シンボル」と言う。1次変調のBPSK方式では、1シンボル当たり2ビットの割合で、コーディングされたデータを電波に変換する。256QAM方式では、1シンボル当たり8ビットの割合で変換する。変換するデータ量を増やすと通信速度は向上するが、エラー耐性は低くなる。

MIMO技術が空間当たりのストリーム数を増やした

従来は1本のアンテナで送信と受信を1ストリームで処理していた。MIMOが登場し、送信側も受信側も複数のアンテナで複数のストリームを処理するようになった。802.11ac Wave2で採用されたMU-MIMOでは、複数のクライアントとの間でストリーム処理が可能となった。


隣接するチャネルを束ねて通信速度を高める

チャネルボンディングは複数のチャネルを束ねて通信速度を高める技術。通常は20MHz幅の帯域幅を、40Mhz、80MHz、160MHzと広げることができる。その分、一定の空間当たりで使用できるチャネルは少なくなる。一般家庭のように1台のAPと数台のクライアントだけが通信する環境では有効。オフィスなどで複数のAPを設置したり、クライアント数が多い環境には不向き。


衝突回避のため古い規格で通信

CSMA/CA方式のポイントはどこまで的確にキャリアセンスできるかにある。11bや11aといった古いからすると、11nや11acなどの通信は「未知の言語」。そのため、新しい通信規格には、古い規格との互換性を保つための仕組みが用意されている。無線LANのフレームのプリアンブルを古い規格のデバイスでも理解できるフォーマットで送信。受信した古い規格のデバイスは、伝送が終わるまで通信しない。

古い通信規格を考慮してプリアンブルを送信する

データ送信を事前に通知

RTS/CTSやCTSセルフプロテクションは、802.11g以降で利用できるようになった技術。11bなどの古い通信規格による電波環境への悪影響を防ぐ効果がある。

通信の衝突を防ぐ技術も古い通信規格による悪影響を防ぐのに役立つ

11bには対応しないと割り切る

「使える無線LAN」の生命線は、チャネル当たりの利用効率をいかに高めるかにある。規格と互換性を理解しつつ、メリハリのある設計を心掛けるべき。オフィス内のネットワークであれば11nまたは11acの5GHz帯のみにし、会議室や公共エリア2.4GHz帯も併用して接続性を高めるといった割り切りもあり。

(2)電波管理とアンテナ選定

無線LANは使用できる通信帯域が限られており、機器を増やしても帯域は増えない。周波数帯を最大限に活用するために必要な要素は、「チャネル」「出力」「アンテナ」の3つ。

2.4GHz帯のチャネル配置

2.4GHz帯の場合、隣接するチャネル同士で、使用する周波数帯が重なる。このため、1チャネル、6チャネル、11チャネルのように重ならないチャネルを組み合わせて利用するのが基本となる。ただし、その組み合わせ(パターン)は限られる。

2.4GHz帯は重ならないチャネルの組み合わせが少ない

国内における5GHz帯のチャネル配置

日本国内では、5GHz帯のうち455MHz幅の帯域が無線LAN向けに割り当てられている。IEEE802.11a/n/acで共通の20MHzチャネルを使うと、互いに重複しないチャネル数は19個となる。一方、11acで使えるようになった80MHzチャネルは4個、160MHzチャネルでは2個になる。日本国内で使える5GHz帯は大きくW52、W53、W56の3つに分けられる。W53とW56はレーダーシステムが運用されていない場合のみ利用可能となる。また、屋外利用可能なのはW56のみで、W52とW53は屋内だけで利用できる。米国では、この他に5.725G~5.825GHz帯がISM帯として利用可能。

国内における5GHz帯のチャネル配置

世界の主要地域における5GHz帯の利用状況

5GHz帯は、W52、W53、W56、W58と呼ばれる範囲の周波数帯。無線LANに使えるかなど、使用時の条件は国や地域ごとに異なる
W52 W53   W56   W58
36 40 44 48 52 56 60 64 100 104 108 112 116 120 124 128 132 136 140 144 149 153 157 161 165
日本 屋内 屋内 屋内 屋内 屋内
DFS
TPC
屋内
DFS
TPC
屋内
DFS
TPC
屋内
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
× × × × × ×
米国
カナダ
DFS DFS DFS DFS DFS DFS DFS DFS DFS DFS
*
DFS
*
DFS
*
DFS DFS DFS DFS
中国 × DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
× × × × × × × × × × × ×
欧州 屋内
DFS
TPC
屋内
DFS
TPC
屋内
DFS
TPC
屋内
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
DFS
TPC
×
韓国 × × × ×
台湾 × × × × × ×
シンガポール 屋内
DFS
TPC
屋内
DFS
TPC
屋内
DFS
TPC
屋内
DFS
TPC
× × × × × × × × × × × ×
○:利用可 ×:利用不可 △:国によって異なる *:カナダのみ利用不可
DFS: Dynamic Frequency Selection  TPC: Transmitting Power Control

チャネルボンディングの使い方

チャネルボンディングを使って通信する場合でも、利用中のチャネルは使えない。このため使用予定のチャネルについて、RTS/CTSを使って通信衝突を避ける。結果として電波干渉による影響は最小限で済む。

サブチャネルの通信衝突を回避する

チャネルボンディングは複数のチャネルを使うので、空きチャネルが不足してしまいがち。その場合は、サブとして使うチャネルを共有するといい。RTS/CTSによる衝突回避機能は、サブチャネルのみでも働く。

サブチャネルは重ねていい

アンテナからの出力

出力とアンテナで電波の「飛び」が変わる。出力は電気回路である無線LANモジュールから送り出される電気信号の強さを指す。電気信号は無線LANモジュールに接続されたアンテナを介して電波として送出される。アンテナには電波を受信して回路へ電気信号として伝える役割もある。

出力は無線LANモジュールが信号として送り出す電力の強さ

送信電力やアンテナから送信される電波の強さは、法規制や規格(技術基準適合証明「技適」)などのルールが設けられていて、都合よく出力をかえるわけにはいかない。工夫の余地があるのは、アンテナの選定。

利得と指向性

アンテナの特性は利得(感度のことで「ゲイン」とも呼ぶ)と指向性(電波や音声などが伝搬する場所が方向性を限られた性質のこと)などで決まる。利得は無線LANのマニュアルに「○○dBi」と記されている値。「dBi」は全方位に無指向性(球面)の理想的なアンテナを基準とする出力の単位(iは「isotropic antenna=等方向性アンテナ」の意味)。数値が大きいほど感度が高い。(送信時はより強い電波を発し、受信時は弱い電波でも受信できるということ)

アンテナによって電波が届く方向や範囲が異なる

  • オムニアンテナ
水平方向に円形に電波が広がるアンテナのこと。一般的な棒状のアンテナ(ダイナポールアンテナ)もオムニアンテナの一種

  • パッチアンテナ 
パッチ型のアンテナのうち13dBiのものはスタジアムなどで多く利用されるため、「スタジアムアンテナ」と呼ばれる
 

チャネルを効率的に使う

指向性が高いアンテナを活用すると、電波を放射する範囲を絞って、他のAPの電波と干渉するリスクを低減でき、チャネルを効率的に使用できる。

パッチアンテナでチャネル利用効率を高める

(3)有線ネットワークの構成

無線LANの黒子にあたる有線のネットワークについても適切な設計・構築が求められる。重視すべきポイントは、「無線LANの高速化への対応」「PoEなどによるAPへの電力供給」「運用規模に応じたネットワーク構成」の3つ。

有線ネットワークについて3つのポイントで検討する

(1)無線LANの高速化にどう対応するか

無線LANが実行速度でギガビット級に達するのも時間の問題。高速化する無線LAN規格に後れをとらないよう有線ネットワークの高速化も必要。APに搭載されている有線LANインタフェースの対応規格の状況に注視する

関連規格 名称 説明 ケーブルの条件
IEEE 802.3an 10GBASE-T 100メートルまで10Gビット/秒の速度を実現する通信規格 カテゴリ6A以上
IEEE 802.3bz 5GBASE-T 100メートルまで5Gビット/秒の速度を実現する通信規格(通称MGBASE-T) カテゴリ5e以上
2.5GBASE-T 100メートルまで2.5Gビット/秒の速度を実現する通信規格(通称NBASE-T)
IEEE802.3ad リンクアグリゲーション 複数本の物理リンクを集約して冗長化とトラフィック分散、帯域幅の拡張を実現する規格


(2)APへの電力をどう供給するか

APへの給電にはPoE(Power over Ethernet)を使うと、電源の場所にとらわれずに無線LAN環境を構築できるので便利。ただし、規格によって給電できる電力や必要なケーブルの種類が異なる
規格 説明
IEEE802.3af
  • 12.95Wの電力を供給できる
  • ケーブルはカテゴリー3または5
  • 2つの給電方式がある
    • Mode Aは、通信と電力を同じ線(1-2/3-6ペア)で送る
    • Mode Bは、10BASE-T/100BASE-TXで空き線となっている4-5/7-8ペアで給電
IEEE802.3at
(PoE plus)
  • 25.5Wの電力を供給できる
  • ケーブルはカテゴリー5
  • Mode AまたはMode Bで給電
Cisco UPoE
  • 51Wの電力を給電できる
  • ケーブルはカテゴリー5e以上
  • 全ペアで給電

PoEの給電方式は2つある
  • エンドスパン方式
スイッチからAPなどに直接電力を供給する方式。スイッチ自体が電力を供給する機器(PSE: Power Sourcing Equipment)として働く

  • ミッドスパン方式 
スイッチ側に給電機能がない場合や給電能力が不足している場合に、スイッチとAPの間に給電装置(PSE)を挟む方式。このPSEをPoEインジェクターまたはミッドスパンと呼ぶ

 

(3)運用規模を考慮するとネットワーク構成はどうするべきか

ネットワーク構成を左右するのは無線LANの管理方式。管理方式によって、導入した場合のシステム構成が変わる。管理の手間だけでなく、通信ルートにも影響するので、有線ネットワークの最適化にあたって重要なポイントとなる

無線LANの管理方による違い

3つの管理方式のうち、ネットワーク構成への影響が大きいのは集中管理制御型。クライアントからの通信はいったんコントローラーに集約され、アクセス制御や認証、ハンドオーバー処理、電力・チャネルの調整など、すべて高性能なコントローラーで実施する。APとコントローラー間の通信はCAPWAPなどのプロトコルでカプセル化する 

クライアントの増加も影響

無線LANのアクセスポイントはレイヤー2のブリッジとして動作するため、クライアント数が増えれば、有線ネットワーク上で取り扱うMACアドレスも増加する。トラッキングを困難にするためにMACアドレスをランダムに変更するクライアントが登場しているので、実際のクライアント数よりもネットワーク上を流れるMACアドレス数が多いこともある。
スイッチは機種ごとにMACアドレス管理テーブルのサイズが限られている。上限値を超えると、通信が途絶えたMACアドレスをエージアウトするまで、新しいMACアドレスを学習できなくなり、挙動が不安定になる

(4)無線のサーベイとチューニング

電波環境の設計の流れ

無線LANの電波環境を設計する際には、いくつかの段階を踏む必要がある。その中心になるのが、現地の電波状況などを調査する「サイトサーベイ」。要件の整理や机上検討で決定した方針にサイトサーベイの結果を加味し、実際にアクセスポイントを配置する

電波環境の設計の流れ

要件の整理

無線LANを構築する前に要件を整理する。具体的には、5GHz帯と2.4GHz帯のそれぞれで利用する無線規格、ユーザーの利用用途、無線LANを利用できるようにするエリアの範囲など

要件を整理する 

机上検討

机上検討は、フロアレイアウト図面の上にAPを中心とした円をコンパスで描いて行うことが多い。円の範囲がエリアやユーザをカバーするようにする。実際に電波が届く範囲は障害物などによって変わるので、このシミュレーションにサイトサーベイの結果を加味する必要がある

円を描いて行うシミュレーション

サイトサーベイ

実際のサイトサーベイは大きく3つのステップからなる。まず、フロアレイアウトなどの現地の状況を目視で確認する。次に、APを置く前の電波状況をツールを使って測定する。最後に、APを仮設置してカバー範囲などを測定する

サイトサーベイの手順

障害物の状況を目視で確認

電波の状況は、障害物の「反射」「吸収」「透過」によって変わってくる。これら3つは障害物の材質によって異なる。例えば、金属は反射が強く、水は吸収する。紙、木材、ガラスといった材質は電波が透過しやすい。このため、障害物の形状だけでなく材質も考慮する必要がある

材質による挙動の違い

2.4GHz帯と5GHz帯の電波特性の違い

既存のAPの状況を確認

「無線LANの電波の測定」と「無線LANと同じ周波数帯を利用する無線LAN以外の電波の測定」の両方を測定するのが理想だが、後者は商用製品が必要、前者だけで済ませる場合もある。電波状況を測定する際には、様々な場所でやみくもに測定するのではなく、ポイントを決めて測定する。基本的には対象エリアの4隅で測定する。これに広さや形状に合わせて測定ポイントを追加する

電波測定ポイントの決め方

APを仮設置して実機検証

APを仮設置して電波状況を測定する。見通しの取れる場所、見通しの取れない場所のそれぞれでカバー範囲を測定する。場合によっては、上下階の電波の透過状況も確認する。これらのデータが実際のAP配置設計のベースになる

見通しの取れる場所におけるカバー範囲の測定

見通しの取れない場所におけるカバー範囲の測定

出力設定が最小の場合と最大の場合の2パターンで測定し、カバー範囲の変動の幅を把握する。運用後に出力をチューニングできるようにするため、配置設計は最大の出力値をベースにするのではなく、出力を上げる余地を少し残しておいたほうがいい

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