2020/06/04

IEEE802.11ac

MCSインデックス(IEEE802.11ac)

MCS Index 変調方式
符号化率  ボンディング幅(上)とストリーム数(下)
20MHz 40MHz 80MHz 160MHz
1 2 4 8 1 2 4 8 1 2 48 1 2 4 8
0 BPSK 1/2 7.2 14.4 28.9  57.8 15 30 60 120 32.5  65 130 260  65  130  260  520 
1QPSK1/214.428.957.8 115.6306012024065 130260520 130 260 520 1040 
2QPSK3/421.743.386.7 173.3459018036097.5195390780 195 390 780 1560 
316QAM1/228.957.8115.6231.160120240480130 2605201040 260 520 1040 2080 
416QAM3/443.386.7173.3346.790180360720195 3907801560 390 78015603120
564QAM2/357.8115.6231.1462.2120240480960260 52010402080 520 1040 2080 4160 
664QAM3/465130260 520 1352705401080292.558511702340 585 11702340 4680 
764QAM5/672.2144.4288.9577.81503006001200325 65013002600 650 1300 2600 5200 
8256QAM3/486.7173.3346.7693.31803607201440390 78015603120 780 1560 3120 6240 
9256QAM5/6----2004008001600433.3866.71733.33466.7866.71733.33466.76933.3

IEEE802.11acで導入された新技術

主に物理層の新技術は伝送の高速化、MAC層の新技術は伝送の効率化を実現している。
対応レイヤー 新技術
11acMAC層 
無線チャネルに対するアクセスを制御する機能ブロック。
伝送効率改善を実現
フレーム集約
フレームを束ねてオーバーヘッドを減らし、転送効率を向上
MU-MIMO
アクセスポイントから最大4台の端末への下り伝送について、空間多重伝送を実現
ブロックACK
ACKを束ねて制御オーバーヘッドを減らし、転送効率を向上
11ac物理層 
無線信号伝送を受け持つ機能ブロック。
伝送速度の高速化や高品質化を実現
伝送帯域幅の拡大
伝送用の周波数帯域を広げ、信号を運ぶサブキャリアの本数を増やす
変調多値数の増加
1個の信号(シンボル)で送れるビット数を増やす
空間多重数の増加
同時に伝送できるデータ数を増やす(SU-MIMO)

伝送帯域幅の拡大

11n規格で定義するチャネルは40MHz幅まで。データに使うサブキャリアの本数は108本
11ac規格では新たに、80MHz幅と160MHz幅のチャネルを定義。サブキャリアの本数はそれぞれ234本と468本。11nと比べて最大伝送速度は2.17倍、4.33倍へ拡大。
隣接チャネルとの干渉を避けるため「ガードバンド」にもサブキャリアを配置し、帯域幅の拡大以上の高速化を実現。

11ac規格では、周波数軸上で不連続な2つの80MHzチャネル「80+80MHzチャネル」を規定。これを束ねて160MHz幅チャネルとして利用する「不連続周波数送信モード」を定義した。80+80MHzチャネルと通常の160MHzチャネルの違いは、周波数チャネルの連続性のみ。(サブキャリアの本数が同数なので伝送速度も同じ。)

空間多重数の増加

複数の送信アンテナから独立した情報を同時に、同一周波数で伝送する技術が空間多重伝送。
11nでは4空間多重まで。11acでは5~8空間多重を新たに規定。
最大多重数で比較すると伝送速度は2倍。

変調多値数の増加

11nの最大既定はOFDM信号の1サブキャリアを割り当てる「64QAM」まで。
11acでは新たに「256QAM」まで使用可能。約1.3倍の伝送速度拡大。

256QAMは64QAMに比べて信号点間の物理的距離が短くなり、雑音や干渉に対する耐性が相対的に弱くなるため、伝送距離が短くなる。
802.11無線LANでは、無線フレームごとに変調多値数を変えれれるため、伝搬環境に応じた最適な変調多値数を選べる。

MU-MIMO

<SU-MIMOの伝送原理>
SU-MIMOは、複数のアンテナで同時に信号を送り、受信側のデジタル信号処理で元の信号に分離する技術。
無線フレームのヘッダー部にある既知のビット列(HT-LTF、VHT-LTF)から推定した伝達係数を基に、混信した信号を元の信号に分離する。

上図の場合、T1、T2から受信局のアンテナR1、R2までの4つの伝搬路の状態は、h11(T1→R1)、h12(T2→R1)、h21(T1→R2)、h22(T2→R2)という4つの係数で表すことができる。
この場合、アンテナR1、R2に届く信号r1、r2は以下となる。
r1=h11・s1+h12・s2
r2=h21・s1+h22・s2
4つの係数を推定できれば、連立方程式を解くことで送信信号s1、s2が求まる。

<MU-MIMOの伝送原理>
MU-MIMOは、受信側で干渉となる混信信号がうまくキャンセルされるように、送信側で信号の位相や振幅を調整してから送信する。

上図のように2つの送信アンテナから放射される信号が「信号レベルが同一」かつ「互いに逆位相」という状態で受信アンテナに到達するように送信側で信号の位相・振幅をうまく調整しておく。(AP側の送信信号事前処理のことを「送信ビームフォーミング」と呼ぶ。)
送信ビームフォーミングは、伝搬路状態に応じて送信信号の位相・振幅を調整し、特定の場所に対してピンポイントで受信感度を調整する技術。

チャネル状態を正確に測定するため、11ac規格ではCSIフィードバックを規定。
CSI(Channel State Information)フィードバックは、APから端末へと向かう伝送路の状態を調べる仕組み。
APはNDP(Null Data Packet)を端末に送信、NDPのビット列は端末側が既知のため、伝搬路状態を推定することができる。端末はその推定結果をAPに返す。

<MU-MIMOで端末を管理する仕組み>
MU-MIMOでは、グループID(GID)という識別情報を使い、受信対象かどうか、空間多重数はいくつか、といった情報を端末ごとに管理している。
APが各端末にフレームを伝送する際に、無線フレームのヘッダー部分にGIDを格納する。
フレームを受信した端末は、GIDを見て自身宛てかどうかを判断する。

フレーム集約

802.11規格から11a/b/g規格までは、イーサネットフレームのペイロード部分(最大1500オクテット)をそのまま格納。11n/ac規格では、1つの無線フレームに多数のイーサネットフレームを格納してデータ長を拡大し、ヘッダーやフレーム間ギャップのオーバーヘッドを減らして伝送効率を改善する仕様「フレーム集約(フレームアグリゲーション)」を導入。

上図のように1個のIPパケットは「MSDU」という単位に入れられ、さらに複数のMSDUを、無線区間上の再送単位となる「MPDU」というデータにまとめる。
MSDUを多く束ねればオーバーヘッドを減らせるが、誤り発生時の再送データ量は増える。
MPDUをさらに「A-MPDU」という単位に束ね、これに無線フレームヘッダーを付けたものが1個の無線LANフレームとなる。

11n/acのA-MPDUは、ACKを集約してオーバーヘッドを減らす「ブロックACK」の利用を前提としている。
下図のようにヘッダーやフレーム間ギャップ、ACKフレームの送信といったオーバーヘッドが削減され、伝送効率が大幅に向上する。

MU-MIMOもACKやフレーム間ギャップを減らし、伝送効率を向上させる効果がある。

802.11a/n/acの仕様とスループットの比較

必須仕様だけで比較すると802.11acは11nの約3倍程度だが、オプション仕様での最大値を見ると11acはケタ違いの速さとなる。
   802.11a  802.11n  802.11ac
必須仕様 オプション仕様 必須仕様 オプション仕様 必須仕様 オプション仕様
伝送帯域幅 20MHz (規定なし) 20MHz 40MHz 20MHz, 40MHz, 80MHz 160MHz, 80+80MHz
空間多重数 (規定なし) 1 2,3,4 1 2,3,4,5,6,7,8
変調方式 BPSK, QPSK, 16QAM 64QAM BPSK, QPSK, 16QAM, 64QAM (規定なし)  BPSK, QPSK, 16QAM, 64QAM 256QAM
誤り訂正符号化率(R) 1/2 2/3, 3/4 1/2, 2/3, 3/4, 5/6 (規定なし)  1/2, 2/3, 3/4, 5/6 (規定なし) 
ガードインターバル長 800ナノ秒 (規定なし) 800ナノ秒  400ナノ秒  800ナノ秒  400ナノ秒 
 A-MPDUの最大サイズ(オクテット)  (規定なし) 8192 6万5535  8192 104万8575
物理層での最大伝送速度 24Mビット/秒 54Mビット/秒 65Mビット/秒 600Mビット/秒 292.5Mビット/秒 6.933Gビット/秒

既存規格との共存技術

802.11規格では、各端末が「CSMA/CA」により自律分散的に動作しチャネルを使い分ける。「CSMA/CA」では送信権を得る端末がランダムに決まるため、フレームの受信を始めるまで、11a/n/acのどの規格なのか事前にわからない。
そこで、フレームの種類をヘッダーの先頭部分にある情報から判定している。

<11a/n/ac規格の無線フレームフォーマット>

先頭にある「L-STF」と「L-LTF」の2つのフィールドは、11a/n/acすべてに共通となるよう、11a規格のフォーマットで統一している。「L」は11a、「HT」は11n、「VHT」は11acを意味する。


<受信したフレームが11a/n/acのどれかを判定する手順>

最初の絞り込みでは、まずL-SIGフィールドを見る。11n/acでは「BPSK、R=1/2」に設定したダミー情報が使われているため、そうでない場合は11aと判断できる。ただし、11aでも「BPSK、R=1/2」を使っている可能性が残されている。そこで、続く2つのシンボル(1個分の信号)でBPSKと「Q-BPSK」という特殊な変調方式を組み合わせ、11a(BPSK、R=1/2)、11n、11acを識別できるようにしている。

<既存規格と同一チャネルで共存する仕組み>

11n/ac規格では、送信側で伝送帯域幅の決定を簡単に行えるよう、段階的なチャネル幅設定の仕組みを取り入れている。
まずAPと端末間で最大帯域幅を決めたうえで、通信時に必ず用いる20MHz幅の「プライマリーチャネル」を設定する。その後に「セカンダリーチャネル」を追加して帯域幅を拡大する。
11acでは、さらに80MHz幅向けの「セカンダリー40MHzチャネル」、160MHz幅向けの「セカンダリー80MHzチャネル」を規定している。

<11a/n/acの共存環境での動作例>

下図の例では、11ac対応アクセスポイントAに11ac対応端末Bと11a対応端末Cが接続し、11n対応アクセスポイントDに11n対応端末Eが接続している状況を想定している。
11ac対応機器はプライマリーチャネル(ここでは40ch)を占有されると、その間はフレームをやり取りできない。




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